缶サット甲子園2016 大会講評

「理数が楽しくなる教育」実行委員会 会長 土岐 仁



今回で第9回となる缶サット甲子園2016全国大会は,各地方大会を勝ち抜いた代表校全11校の 参加の下,盛会のうちに終えることができました.これも各地方大会事務局の皆様を始め,多くの方 のご協力の賜で有り,厚く御礼申し上げます. 全国大会は昨年同様,秋田大学理工学部創造生産工学コースが運営主体となり,学生や一般社会人の ボランティア参加によるご協力の下,秋田市太平山自然学習センター「まんたらめ」及び太平山スキー場 「オーパス」で実施いたしました. 心配された台風の通過も初日こそ豪雨に見舞われたものの,第2日以降は快晴となり絶好のコンディション の下,順調に降下実験が行われました.全体を通して大会はスケジュール通りに行うことができました. 皆様のご協力に感謝申しあげます.

 

缶サット甲子園は生徒自らがミッションを設定し,その達成に向けて生徒自身が主体的に取り組む 課程を,ミッション概要資料,事前プレゼン,実競技,事後プレゼンの4つによって評価しますが, ミッションの目的,意義に対して,いかにそれを確実に実現できるかが重要になってきます.

 

優勝した法政第二高校は,「災害支援用缶サット」を提唱し,災害時の情報収集・提供を目標に, 各種調査結果から最も重要な情報として災害地の映像取得に着目. 目標地点を撮影できるよう航法制御可能な減速機構として,翼幅1mのパラフォイルを導入し,モーター によりパラフォイルのコントロールラインを巻き取ることにより遠隔操作をする機構となっている. これらを実現するために試作や降下実験を重ねていることや,缶サットの操作マニュアルを作成して いること等は他校の参考になると思われる.投下実験では航法制御や動画撮影は部分的ではあったが, 350ml缶という限られたスペースの新レギュレーションの下でのパラフォイルの導入は,高い技術力を 示すとともに缶サットの新たな可能性を示していると言える.

 

準優勝の和歌山桐蔭高校は,「純アクセルを求める」をテーマに掲げ,加速度センサは重力加速度も 検出していることに気づき,純粋な加速度のみを求めようとしているが,理論的根拠が必ずしも明確で ないところが惜しまれる.高度誤差に対して様々な考察をしていることやデータの取得や分析に優れて いる等,高い技術力を示している.また,缶サットの取り組み全体に対してマネジメントが大変優れて おり,他校の範となる事が評価され,特別賞「ベストマネジメント賞」も合わせて受賞しました.

 

敬愛高校はプロペラを用いた減速装置を継続して研究しており,この方式は減速ばかりで無く安定し た姿勢を維持できる可能性がある.今回は羽根を折りたたみ式にして素材や形状も工夫し,古米を用い たお手玉を衝撃吸収材として用いている.降下実験では羽根が折れて実力を発揮できなかったが, 事前・事後プレゼンを通してプロペラ方式の取り組みを熱く発表したことが評価され,「ベストプレゼ ンテーション賞」を受賞しました.

 

全体を通して各校ともマイコン技術やプログラミングは高いレベルにありますが,その反面,機構的 なおもしろさがやや足りない点が懸念されます.また,安定した缶サットの降下に苦心していますが, その中で特に安定した降下を実現したのは尼崎工業高校(シングルパラシュート)と大垣工業高校 (上下縦2段のパラシュート)です.両校とも円錐振り子のようなぶれや自転がほとんど無く,素晴らし い降下でした.

 

今回は新しいレギュレーション(最大重量300g,缶サット本体は350ml缶サイズ)となってから2回目 の大会です.前回は缶サットの構造がお粗末なところがありましたが,今回は格段に向上しました.ただ, サイズがぎりぎりでロケットへの搭載に苦労したチームがありました.

 

優秀校に共通しているのは,明確なミッションとサクセスレベルの設定,わかりやすい概要資料,すぐ れたプレゼン等です.ぜひ参考にして下さい.毎回述べることになりますが注意点を改めて述べます.

  1. ミッションの目的・意義について,単にセンサにより計測することが目的ではなく,何のためにそのミッションを行うのかを十分に検討して欲しい.
  2. センサによる測定は,確実に測定でき,かつその値が正しい値であることをまず確認すること.
  3. センサには規格があり,測定範囲,精度,動特性等が測定したい物理現象にふさわしいものであるかを十分に吟味すること.
  4. 事前に十分な実験をしておくこと.缶サットの降下実験を行わなくても,実験室内でできる実験はたくさんある.
  5. データの取得も動画撮影も缶サットの安定した降下が実現できて初めて意味がある.
  6. データの物理解釈を十分検討すること.
  7. ミッション概要資料は自分たちの取り組みを伝えることができる重要書類である.
  8. しっかりとした缶サットの構造があって初めてミッションに挑戦ができる.
  9. サクセスレベルを明確に設定することによりプロジェクトの達成度も明確になる.

缶サット甲子園2016全国大会にはアンドール株式会社様の協賛をいただいたばかりで無く,社長の和田良明様 には缶サット競技(降下実験)を熱心にご覧いただき,参加高校にCADソフトをご提供いただきました.さらに 審査員を務められた相馬健太様からは三菱重工提供の参加賞と技術交流会における賞品もご提供いただきました. 心より感謝申しあげます.